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知財界人物列伝 現代知財選書 第1巻
『知財界人物列伝』帯袖のデザインより

 本書の発想源は、2021年刊行の『世界の知的財産権』(著 大樹七海)において敢えて取り上げなかった「日本の知財史」を、概略ではなく“人間という最小単位”から深く掘り下げたい、という思いにあります。
 筆者は、知財界の先人たちの様々な生き方に触れてきたことで、無味乾燥にも思える制度や条文の背後にある、葛藤・試行錯誤・情熱こそが、「知財を生む本質」であり、現代を生きる私たちに活力を与える普遍的な価値だと実感しています。
 決定事項や結果だけを知らされても、その背景にある混沌や苦闘は見えません。しかし、その背後にあるプロセスを知り、それら先人の格闘の記憶を己のものとすることで、自らの世界、生命の時間軸が拡がり、未解決の課題や先送りされた問題も理解でき、それを踏まえて、今の私たちが取り組むべきことがより明確となるのです。

 現在、知財関連の資料収集保管は、書籍/新聞/業界紙/社内報/放送/サイト等(絶版含む)と多岐に分散し、調査労力・物価高、アクセス・入手困難等の状況に面しています。
 さらに近年博物館・科学館・サイト等の閉鎖、資料消滅・散逸が進み、関係者の高齢化も相まって一次情報の喪失が加速しています。斯様な喫緊の状況において、本シリーズでは、有名無名の実務家・法律家・事業家・発明家・クリエイターら先人の足跡を記録するため、存命中の対象者や関係者から証言・資料等の一次情報を収集し、一級資料として保存することを使命としています。そして、後世の学習資源として体系化し、知財史アーカイブを構築することで、知財分野の歴史的基盤を強化し、知財分野における人材育成・文化振興に寄与すること、ひいては我が国の知的基盤の強化に資する公共的目的を有しています。
 この目的のために、知財専門出版社「知成堂」は版元として継続刊行し、知財史の基盤を未来へ遺します。
 学術研究・産業界・教育機関に長期的な知的資源を提供し、調査・資料保存・編集を行うために、皆様の幅広いご協力ご支援をお願い申し上げます。


上記は、書籍の本文に書いた内容の要約です。下記に本文の一部を掲載します。

以下は本書の「おわりに」より転載

『世界の知的財産権』からの「日本の知財史」、「知財史としての個人史」の意味


 本書の着想は、令和3(2021)年出版「世界の知的財産権」(大樹七海著 経済産業調査会出版)に遡ります。同書は主要各国・地域における知財の歴史を概説した書ですが、「日本の知財史」については、同書(第1版)では、まだ深く言及していません。それは、日本の知財史については、「概略」で済ませることなく、深く見ていきたい、と思ったからに他なりません。深く、「すなわち人という最小活動単位」から見ていきたい、ということです。これは、筆者が更に遡ること約十年前にやはり、偉大な知財界の先輩たちの生身の人間の生き方を通じ、「知財界で生きる」、ということについて、リアリティをもって、理解できたからに他なりません。
 わたしたちは、決定された事項の箇条書きの羅列や条文をもってしては、その裏にある意図や人間的な格闘を、容易には理解することはできません。それに、その時代に既に解決されたことが書いてあるだけだとして、特に疑いも興味も持ちにくいのです。しかし、その結果に至るまでの紆余曲折のプロセス、という、もっと混沌としていて、悩み多き、解なき状況こそが、常に我々が現実社会において直面していることであり、この段階を、「プロフェッショナル達は、どのように先鞭をつけていったのか」、
そうした表層からは見えてこない深層、試行錯誤の経緯、無数のアイデア、隠された心がけ、血の通う思い、人をその困難解決に向かわせた情熱の根源こそが、いまのわたしたち、未来のひとたちの魂に命を灯し、その心の中に生き続けていく、普遍的なものでしょう。また全てが解決されてきたわけでもなく、困難であるとして先送りされた課題があることも、理解できるでしょう。そうした経緯を知ることで、我々がやるべきことが、よりはっきりするのです。

 
 よく「失敗から学ぶ」といいますが、「何も考えなければ失敗し、考えても失敗しうる」のです。「成功する」とは、考えて、さらに時の流れという総合的な力を味方につけたところに、ほんの一筋の光がさした事を指すのであり、この一筋の光を掴み得たプロフェッショナル達の数々の人生に触れることにより、その考え方と機運というもの掴み得る感度を上げるのです。そこを提供したい、というのも目的としています。わたしたち一人が施行錯誤できる人生での回数は限られています。しかし、そうした「乗り越えた」人達の戦記を読み継いでいくことにより、人類全体として、成功確率を高めていければと思っています。


 著者の意図として、シリーズ(全書)とするのは、累々と続けることにより、第一巻から読者が読む契機を増やすことにあります。そのために、知財専門出版社『知成堂』を創設しました。版元として全書を出版し続けることを使命としています。個人名の伝記では当時のその人を知っている人たちだけで、役目を終えてしまう可能性があります。シリーズとして脈々と繋げていくことにより、後世のひとたちへ成功への手がかりを増やし、情報にアクセスしやすくしようと思うからです。
 現在、偉人と認識されている先人も、後の執筆者が偉人の系譜にて書籍で取り上げたために、記録を辿ることができるようになり、それにより後世に偉人として扱うことができ、それがなければ歴史の中で埋もれ葬り去られていた方も多いのです。すなわち、本書は無名の偉人を記し残していく使命をも兼ね備えていると考えています。今後も踏まえ、1冊に2~3人複数人の収録を想定しています。また、御逝去された折には、その時期に刊行予定の巻にて、追懐としてご関係者様の文章を掲載させて頂くことも視野に入れております。


 情報アクセスの容易さを担保するために、出来る限り、対象人物の情報を集約したいと思っています。
 これは、著者が現在、紀元前から現在に至るまでの発明事業家たちの伝記物である、連載『世界の著名な特許にみる発明事業列伝』や他の伝記執筆のための調査に取り組んでいることからの実感ですが、媒体(書籍のみならず、新聞、雑誌、業界紙、社内報、TV、ラジオ、ネット等)や各情報の所在、所有が様々であることの情報アクセスの困難さ、煩雑さ、複雑さのために、これでは後世の方が理解するには、相当の労力を要してしまう状況にあると感じているためです。
 更に昨今の不況、財政悪化、理科離れもあり、科学館や博物館施設の閉鎖、貴重な資料の散逸、廃棄が増えています。そして死没後となればさらに近親者や関係者の死去、連絡先不明も含め、情報源の特定と情報の取得の困難さが増すことも痛切に感じています。本書の企画は、こうした限られた予算と時間の中での勝負、という切迫なる気持ちで、情報収集と整理に努め、そしてそれらをまとめる執筆を行うものです。
 そのため、出来る限り存命中にご本人の方とやり取りさせて頂く、対象人物の資料、関係者の証言などを増やし、リストを整備し、一級資料として遺すことができるよう力を入れるもので、みなさまに、資料収集・調査活動へのご理解とご協力を頂ければ幸いに思います。


 知財創造力を保護し育成し補完するシステムとして、同書が地道に、拡がり、永く、息づき、知財界に貢献しうることを願っています。

大樹七海 拝

第一巻の位置づけ

 
 第一巻は荒井寿光(昭和19年/1944年- 現在)氏である。荒井氏の人生を通して、「知財立国宣言」(平成14年/2002年)に象徴される、大規模な知財制度改革の発端と経緯、そして各種新体制の立ち上げとその船出を取り上げている。

「知的財産基本法」が成立し、知財立国実現計画として、その「知的財産基本法」に基づき毎年策定されることとなる、初の「知的財産推進計画」の経緯と概要を解説し、さらに知財立国第一期(2003-2006)の歩みも掲載した。ここに膨大かつ多岐に渡る知財分野におけるスタート目標の殆どが集約されているといってよい。

 つまり第1巻自体が、今後の『知財界人物列伝』の指標、索引や目次になるともいえる構成で、インデックス的役割を担っている。

 今後、多岐に渡る各分野の人物の活動記録を収録し、さらに重層的に具体的な歩みが詳述されることで、より深く力強く知財史を補強していくものである。